【2009年4月14日】
舞鶴公園。
福岡城のことだ。
黒田長政が福岡藩主になって少し経ったあと、長政の父・如水(官兵衛)が
「オレはかつて小早川隆景どのに『おまえは頭の回転が早過ぎるから』と言われたことがあったが、おまえはオレと真逆だ」
と言った。
長政には父親に比べて決断力に欠ける部分があった。
これは、「おまえの頭は鈍い」と言っているのと同じだ。
実際には鈍いのでは無くて考え過ぎるタイプなのだが、父親から見ると「鈍い」となる。
「考え過ぎて決断が下せないのであれば、何か刺激を与えればよい」
如水はそう考え、
腹立たずの会
という会議を定期的に開くよう長政に言った。
今日この回は「異見会」とも呼ばれ、一部経営者もこれを取り入れている。
腹立たずの会は身分の上下に関係無く意見を発言出来る会議で、出席者は長政を含め全員が会議の前に「決して腹を立てないことを誓います」と宣誓した。
身分が下の者も自由に発言出来るので、長政にも藩全体にも良い刺激にはなったのだが、ある日問題点が浮き彫りになった。
長政が出席者の一人の意見を「この者の意見が良いので、これをそっくりそのまま採り入れる」と言ったのだ。
同席していた如水は会議のあと、「おまえ、ちょっと来い」と別室に呼びつけた。
如水は
「腹立たずの会はあくまで広く意見を出させる場であって、誰かの意見をそのまま採用する場では無い。数ある意見から一つを選びそれを実行させるのが藩主だ。今日のおまえは藩主の権限を放棄している」
と長政を叱った。
これ以後の長政は誰かの意見を丸呑みしなくなった。
藩主の権限の重さと厳しさに気が付いたのだ。
この腹立たずの会は明治まで続いた。
福岡に移った如水は、あまり藩政に口出しをしなかった。
昼間、杖を突き悪い足を引きずりながら城下の子供たちにあめ玉を配って歩いた。