【2012年8月27日】
佐竹右京大夫義堯。
出羽久保田(秋田)20万5800石の国持大名だ。
この国持大名に、三度目の結婚話が持ち上がる。
お相手は丹波篠山藩主・青山忠良の娘で、こちらは初婚だった。
篠山藩青山家は譜代大名の名家で、国持大名の佐竹家との家格も釣り合うものだった。
しかし、この縁談には少し不自然な点があった。
それは、篠山藩主・青山忠良が佐竹義堯に
「右京大夫どの、実際に我が娘に会って、それで結婚するかどうか決めていただけぬか」
と言って来たことである。
佐竹義堯は首をかしげた。
通常、大名同士の結婚に「お見合い」は無い。だが、青山忠良は「娘と会って結婚する、しないを決めてくれ」と言う。
「まあいいか」
このとき、義堯はあまり深く考えずに「お見合い」に応じた。
「お見合い」は篠山藩江戸屋敷で行われた。
「こちらが姫君であらせられます」
部屋に入って来た女性を見て義堯はビックリした。
ハート狙い撃ち。
それはそれは「絶世の美女」と言っても過言ではないほどの美女。
「青山どの、この縁談、お受けいたす!」
義堯は声を弾ませ一発回答。足取り軽やかに久保田藩邸へ帰って行った。
そして、婚儀当日。
「あの美女が、我が妻になる」
心ウキウキの義堯。
その義堯の眼の前に輿が止まる。
義堯は「さ、姫。姫は今日から久保田20万石の正室でござるぞ」と上機嫌で輿の戸を開けた瞬間、
「このブスは、何だ…」
と思わず声を失った。
輿の中にいるのは「お見合い」のときの女性とは明らかに別の女性だった。
「これはまるで、人外の化生ではないか!」
「ヒドいブスだ」と義堯は言っているのだ。
当然、義堯は青山家に抗議した。「このオンナは『お見合い』のときのおなごと別人ではないか!」と。
そりゃ、佐竹義堯じゃなくても苦情を言うだろう。
青山忠良は
「実はその娘こそが我が娘で、『お見合い』のときのおなごは藩邸の下働きのおなごでござる」
と白状した。
忠良は続けて
「右京大夫どの、親の気持ち、ご理解下され。娘はあのような無器量(ブス)なので嫁の行き手がござらぬ。しかし、どんな無器量でもかわいい娘。何とか結婚させてやりたかった」
と言った。
藩と藩の約束なので義堯は嫌々ながら三度目の結婚をしたが、9日目に離縁した。
これが「替え玉お見合い事件」のあらましである。